SAKAGUCHI LAB
本文へジャンプ 2006年 

坂口研究室の研究目標


はじめに・・・


 大上段に振りかぶって研究内容を書くのも恥ずかしいので、2006 年度卒業研究の4年生募集用のパンフレットをそのまま載せる。

 基本的に、理科大では4年生になると各研究室に配属されて1年間卒業研究の実験を行う。実質的にはマスターコース1年の院生と同じ様な実験研究を行っている4年生が多い。そのまま大学院に進学し、研究室に残留する学生も多いので、事実上、大学院の修士課程が3年制に近く、修士課程修了だけの3年間で、博士後期課程修了者並の実績を上げる者もいる。

 応用生物科学科では、そのため、3年生修了時に希望研究室を出し、3年次までの成績の順に希望研究室に配属される。そのため、3年修了時の研究室選びは、大学院進学希望者の大多数にとって、事実上、研究職として人生が決まる大きな分枝点である。以下の文はその際の研究室紹介のときに用いた文である。学部生向けなので、かなり大まかかつ大風呂敷的に書かれている。

我が研究室の研究テーマは、せこく論文を稼げるテーマ(博士の学位が簡単に取れるテーマ)と、うまくゆけば時代をかえるような、しかし、大体は論文が出来ずに終わる(学位が取れない、あえなく一巻の終わり、プータローになる)一攫千金型テーマに分かれる。

 せこいテーマは、やっていることが教科書に出てくるようなルーチン実験(やれ、シグナルだ複製だ修復だ組換えだなんだと、その遺伝子取りや蛋白質取りの解析など)で、世界中で解明された現象の更にその先をやる!なぞと言っても、所詮、解明された現象はアメリカ・ヨーロッパで始まり、あとで追っかけてやるのなんて、猿真似そのものだから、単純すぎてすぐ飽きが来る。例え、有名な雑誌に論文が出たところで、猿真似実験である。こんなものを一流と誤解しないでいただきたい。

 我が研究室のテーマも半分は、せこいテーマでございます(セコいのにしないと学生さんが寄り付きませんのでね)。よく言うと賢い系のテーマとなり優等生が飛びつくようなタイトルになっております。数年もしないうちに時代遅れになるようなアメリカで流行っているだけの見せかけテーマです。実に情けない!!だから研究室に入って、2−3年もやれば、もううんざりと飽き飽きすることになる。こういうのに飛びつくのは皆さん頭脳は明晰なのが多いので直ぐに気が付く。しかしもう一段落するまでは引き返せない。だから、その場合は「学位取得のためだ学位のためだ博士号のためだメシのためだバカに対してエエカッコするためだ」と念仏を唱えながら一段落までやりなさい。論文は簡単にでます。ご希望なら如何なる有名雑誌でもどうぞ。

 一攫千金テーマは競馬やっているつもりでやればよい。貴方のチョイスです。人生勝負じゃよ。セコくセコく稼ぐ、堅い堅い人生を送るなど若者のやることか!どうです、一発?

 でも、正確には、せこいテーマと一攫千金テーマを同時にやるのが望ましい。こそこそこそこそとセコセコせこいテーマで論文を稼ぐ、稼ぎながら一攫千金をコッソリ脇でやると失敗しても落ちこぼれない。そのかわり、時間が足りなくなるので、体力と耐久力は人の2倍いりますわな。脳味噌はいりません。卒業研究で1年経っても、セコいテーマが格好良く見える人はアホですね。頑張ってください。


以下に書かれた内容は、すべて、せこいテーマのみ書いてあります。一攫千金テーマは書いてありません。解説もしてありません。面談に応じたときにご希望があれば、提示いたします。


2006年度パンフレットより

 
 高等生物の染色体の相同および非相同組換えに伴う DNA 複製、修復、組換え(3R)の分子機構と、それに伴う減数分裂、細胞分化、形態形成の分子的基礎の解明(こういう風に書くと、お勉強の優等生にはうけますんや)を、下記の4方向からセコいテーマとして目指している。



1)
高等植物は常に、動物や微生物材料よりもはるかに強い紫外線に年中暴露され、しかも逃げることができない。その観点から、高等植物の発生と分化を3Rの分子機構の関連の中で解析を行なう。
2)
ショウジョウバエは発生学的研究と遺伝学的な研究を同時に行える材料である。そして発生現象とDNA修復系が密接に関連しており。その際に発生する特殊な3Rの分子機構の解析を行なう。
3)
担子菌類キノコの1種を用いて特殊な3Rの分子機構が存在する減数分裂機構と細胞分化誘導の分子メカニズムの解析を行なう。この材料は、一年中実験室の中で人為的に減数分裂を誘導できる唯一の生物である。


 1)2)3)の研究手順は以下の通り。

i)  
これら材料の3Rに関与するタンパク質の遺伝子をクローニングし、そのレコンビナント蛋白質と抗体の作成。 それを用いて、その分子機構の解析をまず行なう。
ii)  その遺伝子や抗体を用い、減数分裂・細胞分化・形態形成との関係の追求。ノックアウト個体の作成。生体内での組換えシステムの存在様式を調べる。        
iii) その遺伝子や抗体を用いて、それに相関する蛋白質群をtwo−hybrid法、phage display 法により探し、見つけたものから詳しく調査する。

4)
哺乳動物の DNA合成系関連酵素、およびその補助因子群の構造と機能の解析。特にその分子プローブ(選択阻害物質)結合時の3次元変化の立体構造解析。新しい阻害剤の分子設計。


i)   哺乳動物のDNA合成系関連酵素およびその補助因子群の遺伝子クローニング、レコンビナント蛋白質とその抗体の作成。その分子機構解析、NMR 解析、X 線結晶解析とコンピュータ・シミュレーションにより 、その立体構造の解析を行う。
ii) その遺伝子を用いて、アミノ酸配列の異なる変異型酵素の作成。分子プローブの結合の変異の立体構造解析。さらに減数分裂、細胞分化、形態形成との関係を探るため、上記の ii) 、iii) と同様に実験を行う。
iii) 分子プローブ存在下の蛋白質側の立体構造の変化を捕らえ、新しい医薬品のドラッグデザインとその合成、さらに実用化実験を行う。

 


 

研究の前提になる作業仮説
(セコいテーマの解説なので、如何にも賢い系風に書いてみました)

 

 如何なる生物現象も元は単純なものから進化したと考えられる。高等多細胞生物になったら、突如、それまでには有り得なかった新しい遺伝子が出現すると言うことはあり得ない。より下等な生物の遺伝子群の中に必ずその祖先型がある筈である。

  多細胞生物特有の現象も(例えば、多細胞生物化・発生や形態形成、神経系・免疫系の出現なども)、遺伝子レベルでは、真核の単細胞生物の時の何の遺伝子が元になって進化したのか考えなければならない。

 

 現在、坂口研では作業仮説として次のように考えている。

 

 

 

単細胞中の分子レベルの現象

  多細胞生物特有の進化した役割

 

 

 

           DNA 複製

------------

このメカに関与する遺伝子群は、

 

 

多細胞生物になっても細胞分裂・

 

 

細胞周期の基礎機能を維持。

 

 

 

           DNA 修復

------------

このメカに関与する遺伝子群の

 

 

一部が細胞分化・発生・形態形成

 

 

ための遺伝子として、その分子的

 

 

基礎へと進化。

 

 

 

           DNA 組換え

------------

このメカに関与する遺伝子群の

 

 

一部は(含、相同及び減数分裂、

 

 

大脳神経系や免疫系の発生分化と

 

 

非相同組換え)化のための遺伝子

 

 

遺伝子群として進化。

 

 

 

  従って、単細胞系の3R に関する遺伝子群を元に、多細胞生物型の遺伝 子群(進化しても元の機能を維持している遺伝子群と、進化して元の機能 は失っている機能不明の多数の遺伝子群に別れる)を研究すれば、上記のような多細胞生物特有の現象を芋づる式に分子生物学的に明らかにできる筈である。

 このような作業仮説の元に研究テーマは組まれている。

 あくまで作業仮説なので、実験的根拠はまだない。これから作る。その考え方を、すぐ理解するのも困難であると思う。詳しくは研究室に所属して卒業研究の間には理解できるようになるだろう。

 さて、これらは坂口研が出来て以来追求しているセコセコの研究テーマである。従って、技術的には無難な既存の分子生物学・遺伝子工学・生化学・構造生物学・蛋白質の立体構造解析などからなっている。この分野は学位を取るのは簡単です。多分やったらやった分は必ず学術論文が出て、結果として研究職も得られ易いので、無難な人生を過ごしたい人はこっちをどうぞ。その代わり、そんな論文は、どんな有名学術雑誌に出ていても、直ぐに忘れられます。でも業績リストが増え、学位取得用と就職口探しには役に立ちます。

 一攫千金は、うまく行かないと学位取得も就職もパーになります。ところで、このせこくないテーマとはなんだろうか?少しだけ触れておこう。本当にせこくない(つまり、一攫千金、天国か地獄か)テーマは面談で決めよう、ここには書かない。現在行っている多少せこくないテーマ(少々は奇をてらっているが論文は確実に出るテーマの意。一見、一攫千金型に見えるがそうではない)を以下に表題のみ書く。後はご推定ください。

 新たなる物理学原理に基づくバイオ用解析実験法の開発と本格的な産業利用の可能なバイオエンジニアリングの構築。

 ・新型の超高感度温度センサーとそのインキュベータ?の開発

 ・電子工学対応の生体高分子解析装置の開発、

  (この2つは最終的には超高速 DNA シーケンサーの開発が目的)、

 ・DNA分子の正確に配向した単分子膜の開発とその応用、

 ・超高圧・極低温対応の無機化学材質系クロマト法の開発、

 ・蛋白質立体構造の試験管内再構築法の開発、

 ・機能的に異なる細胞群の自動分画装置の開発、

 ・生体高分子の高速結晶化法の開発、

 ・無機化学材質系による超耐熱固定化酵素の開発、

 ・分子プローブー無機化学材質ビーズの開発、

 ・新型造影剤と画像解析ロボットの開発、

 ・エバーネッセント波・光導波路による蛋白質立体構造の解析。

 技術的にバイオ系や有機化学ばかりでなく無機化学、物理化学、物理学、電子工学、精密機械工学・ロボット工学、ナノテクノロジーなどを大きく含む。技術的に坂口研だけでは不可能なので、その領域の専門家達との共同研究で進めている。既存のバイオから逸脱した研究実験も多く、耳慣れない分野なので戸惑うと思うが、多少の波瀾と奇抜な人生に興味があればどうぞ。一攫千金でもないので、それほど身構えるほどのことはない。おめえ、織田信長、武田信玄、西郷隆盛、坂本竜馬、高杉晋作の末裔だろう。

 

研究テーマについて。

 BSには頭の良い潜在能力の高い学生は多い。しかし、受験で破れた負け犬のような落武者のような、精神的に行く方向を見失っている情けない者が多過ぎる。君達に不足しているのは自信と目標である。坂口研の目的は、自信を取り戻させ、手の届くところに大きな目標があることを示すことである。自信を取り戻し目標を発見し、その目標に向かった者は多い。

 

 私は大卒後、中年になって理科大に来て16年半になる。その間のBSの学生達の養成には大々的に成功したという自負を持っている。今や博士号を取得し科学者への道を歩んでいる者だけでも30数名になり、アメリカなどで国際的に活躍している者、研究技術職として国立研究所・大学などで活躍している者、企業研究所で活気的な実用開発に成功した者、積極的に中学高校の教育職に就いた者、知識を活かして文系に転換した者(雑誌記者、弁護士、高級官僚)など、自信に充ち溢れた人生を送っている者が非常に多い。特徴は、皆、坂口研で学術論文を出していることである。学術論文を発表するという大学時代の人より抜きん出た一つの成功は、何処へ行っても常に一目置かれる特別の存在になり、次の大きな礎になる。また、もちろん博士号を取得する最短コースでもある。今までの坂口研出身の4人に1人強は博士号を取得している(私が定年までにはこの率は更に上がる予定。3人に1人か)。従って、研究テーマは論文が実際に出る内容を中心とし与える、そして各自が考え実験するという形で組む。

 

 新しい時代に即した研究テーマを進めるので、各自の細かいテーマの割り当ては、研究室配属後、各自の卒業後の都合や進路も含めて面談によって決める。基礎と応用・実用研究の区別はなく、根本的に基礎から新しい理論が掘り起こされ、そこから更に応用や実用を考えださないと非常に独創的な研究というものは生まれない。